2019年10月03日

魔女とふたりのケイト

魔女とふたりのケイト
魔女とふたりのケイト

「妖精事典」のキャサリン・ブリッグズ作小説。

妖精事典
妖精事典

同じく彼女の創作の「妖精ディックのたたかい」とは割と別の雰囲気の作品だった。

妖精ディックのたたかい
妖精ディックのたたかい

「妖精ディックのたたかい」は明らかなファンタジー作品なのだが、
本作は魔女や妖精は描かれるもののファンタジーではなく、割と民俗学での合理的なアプローチで説明しようとしている内容。

なので「妖精ディックのたたかい」の場合、俺の脳内ではアニメ風に再生されたのだが、
これはバリバリの実写ドラマとして脳内再生された。

ジョセフ・ジェイコブスのEnglish Fairy Tales,(1890)が底本な事は書いてある。
https://archive.org/details/englishfairytale00jaco/page/n6

イギリス民話集 (岩波文庫)
イギリス民話集 (岩波文庫)

調べたら「おはなしのろうそく5. だめといわれてひっこむな」に「クルミわりのケイト」として元の話が収録されているらしい。

だめといわれてひっこむな (愛蔵版おはなしのろうそく (5))
だめといわれてひっこむな (愛蔵版おはなしのろうそく (5))

それをキャサリン・ブリッグズが合理的に解釈する形でアレンジして17世紀イギリスのヒューマンドラマにしてある。

原題でもあるケイト・クラッカーナッツは御転婆な女の子の事を云うらしいけど、「クルミわりのケイト」という翻訳の方がいいよなあ。

これで読み直したら、なんか知ってたような気もする。

>クルミ割りのケート
http://hukumusume.com/douwa/pc/world/05/20.htm

悪役との決着のつけかたがあまりに拍子抜けなので、ネタバレ含む解説をしてしまおうと思う。

クルミ割りのケートでも描かれているが、ニワトリ番の魔女が「ナベのふたを開けて、中をのぞいてごらん」というくだり。

コレ、キャサリン・ブリッグズは何処まで科学に気づいたかしらないが、
「湿気に満ちた鳥小屋」で俺が思い当るのはインフルエンザなどのウイルス感染の危険だ。

1997年に本来人間に感染することはないとされていたH5N1型のトリインフルエンザが人間に香港で感染した症例が出た。

俺はコレについて実例の採取がされていなかっただけで、
「鳥や虫が病を運ぶ」のを経験則的に知っていた人々は、穀類を荒らすからという理由だけでなく鳥追いや虫送りを当時は人命を軽視されていた子供達にやらせていたのでは?と仮説を立てている。
死因が科学的に証明できなかったり、漠然と「幼い頃に病死した」と記録されていたものの一部にコレが潜んでいたのではなかろうか?

科学的に後付けにせよ解説できる
栄養を摂取せず免疫力が低下している状態で、ウイルスだらけの所に送り込む事で感染させるという「魔術」
が英国でもあったのではなかろうか?

科学や医学については翻訳も色々と不満な個所が。
P280に「放血」とあるのは「瀉血」の事だろう。
https://kotobank.jp/word/%E7%80%89%E8%A1%80-75875

翻訳については色々と言いたいことがまたある。

P213のケイトの置手紙は

「親愛なるせんせ」
「どぞ内しょに」
「ごりょ主さまに」


と彼女の読み書きが拙い事を表現した原作に合わせているのに

P234に
>ケイトはできるだけきれいな英語でいった。


とあるが、スコットランドにいたケイトたちが南方のイングランドに来て「イングリッシュ」を話したという事だろう。

これまでケイトやキャサリンが話していたスコティッシュが標準語としての翻訳だとしたら、
その後にイングランドで会話する方に合わせるのなら、全て其方の方言に合わさないと変だろ!

なのに、その寸前に会話していたイングランド人は丁寧語でない話し方をしている。

>「その娘をお屋敷にやったらええんじゃないのかね?」

>「んだな。やさしそうな顔つきのじょっちゃんだ。外国なまりはあるけれど」


「良い」を「ええ」というのは関西弁。

「じょっちゃん」は老人語。

>老人語
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%80%81%E4%BA%BA%E8%AA%9E

「んだな」は仙台弁だ。

方言への翻訳にしても地方がデタラメ。
関西弁で同意を表すのなら「せやな」だし、
「良い」を仙台弁側で使うなら「いいっちゃ」だろ。

そして、その後の屋敷での会話は完全に標準語になっているので全く整合性がとれてない。

翻訳者の石井美樹子は満州生まれ、東北育ちらしいけど。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%B3%E4%BA%95%E7%BE%8E%E6%A8%B9%E5%AD%90
ケンブリッジ大出て講師になろうとも、日本語側の表現力と論理思考能力に問題がありそう。

思い付きでなまらせてみたものの、
その後も、ずっとその話し方になるという影響を全く考えてない。


逆にイングリッシュが標準語として後半翻訳で扱われるのなら、
冒頭からお嬢様キャサリンが話している言葉は北国訛りのスコティッシュで冒頭から書かなくてはいけない筈。

更に酷いのは、そんなデタラメ翻訳を、そのまま児童書として書籍にしてしまっている。
旧い本だけど岩波書店の編集能力も大したことねえよなあと。

後書きに17世紀のイギリス史について書いてあるのもざっくりすぎ。
スコットランドのカルヴァン派を長老派(プレスビテリアン)って言ったりの説明が漏れてる。
そしてイングランド側のエリザベス1世の死後のごたごたについて王権側でなく、作中に何度も名前が出てくるクロムウェルについて説明しておけば、半分のスペースでより解り易く説明できる。
俺は世界史を選択して学習しておいてよかった。この背景が解らないと、この物語の4分の1位は多分、ちんぷんかんぷんになるだろう。

クロムウェル [DVD]
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「ゲド戦記」シリーズ同様に見返し個所に地図が載っているのだが、これもあんまり役に立たない雰囲気だけのもの。

ゲド戦記(6点6冊セット) (岩波少年文庫)
ゲド戦記(6点6冊セット) (岩波少年文庫)

P22に地名の羅列があるのだが、相関の位置描写が飛び飛びで変だし、ダンマック村、ドゥーン村、赤堤の丘、ドゥーン丘、山猫の森などは地名側が書いてあるのに地図には載ってない。
一方で、作中で出てきもしない地名がやたら拡縮地図含めて掲載されている。
この作品用に地図を描き起こしているのなら、この作品に出てくる地名を優先すべきで、ただただ見づらい+殆どが無意味な余計なものだ。
位置関係をテキトーにやってる図面など地図として役に立たない!

一方、この方の写真付きの取材の方が要所をおさえているおかげで遥かに雰囲気を醸し出してくれている!

>英国探検隊(第46回)ギャロウェイとふたりのケイト(前編)
https://ha5.seikyou.ne.jp/home/pemmican/england/kate/index.html

地図は表2側と表3側とで別の物のだ。
後書きには

>舞台をスコットランドとイングランドに広げて、よりスケールの大きい歴史小説に


とあるが、現地取材された方曰く、

>英国探検隊(第55回)ヨークシャとふたりのケイト(前編)
https://ha5.seikyou.ne.jp/home/pemmican/england/kate/index_4.html

> "Kate Crackernuts" について調べてみると、細部の異なるいろんなバージョンが見つかる。

>でも、どの "Kate Crackernuts" にも共通なことがある。羊の頭をかぶされてしまった妹とふたり、姉妹は遠い遠い国へと旅立つのである。


前述の「クルミ割りのケート」からして旅に出る事は元々の設定だろと。

で、「元々の話が如何考えても2つの話を無理に1つにしている」せいもあるが、この本側のドラマとしてもその違和感を強く継承してしまっている点が大いに残念。

そもそも、イングランド側に娘二人で旅立った所で、何が解決する訳でもそもそもない。
父親やギデオンを探しに行くのは変で、帰ってくるのを待っているべきだろう。

そしてむしろ悪役が抑え気味すぎるんだけど、魔女という存在を悪者にしない為に相当に キャサリン・ブリッグズが手心を加えてしまっている感じがする。

創作としての独自性を強く打ち出すのなら、ヴィランたちが実は生きていた!とかで、引っ張れそうな気もするんだけど、そもそもこの作品の解決策とかみても、 キャサリン・ブリッグズは民俗を取りまとめて紡ぎ合わせる能力の高い方だったとしても、オリジナリティに関してはいささか…という感が逆に強くしてしまう。

こういう点、原作破壊する実写版の効果が良い方に働けば、連続ドラマの底本としては結構使えそうに思う。
俺ならそういう映像化できる。

通訳をつけてくれての、海外ロケが必須ではあるが。
俺のアレンジした脚本を翻訳するとかは自分でやるけど。

魔女とふたりのケイト [ キャサリン・メアリ・ブリッグズ ] - 楽天ブックス
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posted by wolf_howling at 13:54 | Comment(0) | 児童書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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